ゲリー・サウスウェル作1992年 トーレス1883年レプリカ
タレガも使った銘器“トーレス”。ラコート辺りのいわゆる19世紀ギターを使用していたりすると、トーレスをどう紹介しようか少し考えてしまうところでもあるのですが、まあ一般的に現代のクラシックギターデザインを作ったと言われる19世紀スペインのギター製作家です。
・・・というのも、ヒョウタン型ボディや6単弦のギターは当然もっと昔からあったものだし、良く言われるギターの大型化や扇状の力木などこれだって他の製作家も作っていてトーレスが初めてなわけでもなく。またトーレスが活発にギターを作っていた時期に周囲を見回してトーレス一人だけが形的にも音的にも変わったギターを作っていたというわけでもない。。。だから発明発見の話のごとく「あらゆる始まりはトーレスにある」というような言いまわしはわたしにはちょっと抵抗があります。
とは言え「トーレス」の名がその後のクラシックギターに与えた影響は計り知れない。今でこそかなり意欲的・・・と言うか斬新な構造を持ったギターをよく見るものの、それでも今あるギターの殆どは大別すればトーレスの影響からなるものと言えるだろうし、それはクラシックギターの太い幹として脈々と生きている。
いわゆる19世紀ギターの時代にはヨーロッパ各地で様々なお国柄スタイルで作られていたギター。その中でスパニッシュスタイルがそれらを使用したギターの上手なスペイン人達の活躍や楽器に合致したレパートリーの効果などもあって徐々に台頭してきて、後にセゴビアの出現によって20世紀にはそれが全ヨーロッパ的というか世界的にクラシックギターとして定着した。。。そんな歴史の中でスパニッシュスタイルの代表として最も評価された象徴的な存在がトーレスという風に考えています。人一倍研究熱心でそれを具現化する高い製作能力も持っていた。もちろん楽器としても当時から抜群に素晴らしかった。そして丈夫だったんでしょうね。丈夫さに欠けた楽器は歴史に残りません。
・・・というわけで、写真の楽器。ゲリー・サウスウェルというイギリスの製作家によるトーレスのレプリカです。サウスウェルは古いギターの研究家として名高く、様々なレプリカを製作していてそれぞれが高い評価を得ており、有名な演奏家も多数使用しています。近年ではブリームの依頼でブリーム所蔵のハウザー1世をコピーし絶賛されました。この人のトーレスレプリカはパリの楽器博物館に所蔵されているSE47と呼ばれる1883年の個体をコピーしており、これもそのタイプですが本物の方の写真を見ると装飾は若干違っています。
表板松、横裏板はメープル。音の方はメープルらしい発音の速さがあります。全体に明るい音色でラスゲアードも軽やか。高音弦も柔らかく歌いやすい。低音も適度な粘りで巻弦のメロディーラインも扱いやすく、そして6弦は古いギターに良くあるドスーンという響きを持っています。パリパリ・カリカリの音からポヨヨンとした音まで音色の変化の幅が広くてこれは使っていて面白い。弾いているとクイックレスポンスなステアリングを持った古風なライトウエイトスポーツカーといったイメージでしょうか。元になったトーレスも当時はこんな音だったんでしょうか。。。
今のギター、特にローズウッドやハカランダなどを使った楽器とはかなり違う音を持っていて、確かに古い楽器との共通点も感じます。タレガなんかを弾くと確かに「ハマル」感じもあります。使用するに当たってはいわゆる“トーレス”として歴史的なアプローチに用いるのもよいですし、あくまでも“そういうモダンギター”として扱うこともできるのがレプリカの良い点でもあります。今年はこれを積極的に使っていこうと思っているので、演奏会では音色を聴いていただく機会も多いと思います。弦はアクイーラのぺルラノーマルをセットで使用。スッキリした鳴りの高音弦と渋めで伸びのある低音弦がマッチしていると思っています。
Southwell Guitars HPでは例のブリームのハウザーモデルが掲載されるようになってから、このトーレスモデルは無くなってしまいました。各種レプリカのほか研究した古いギターの構造を現代のギターとして活かした“Aシリーズ”という名の変わったギターも見られます。
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