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2014年12月14日 (日)

イグナシオ・フレタ・エ・イーホス 1977年 ‘HOSHIDO’

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イグナシオ・フレタ・エ・イーホス 1977年
スプルース&ローズ 650ミリ

(故)芳志戸幹雄先生がバルセロナのフレタに直接注文し
以来最後まで愛奏されていたギターです。

堂々たる風格。
まあ、フレタはある意味で一番有名なギターともいえるかもしれません。
見た目、いかにも普通。どこかで見たようなギターに見えるのは
ヘッドの形もボディのシェイプも、口輪のデザインから何からなにまで
いっぱい真似されたからでしょう。

真似というのは別に悪意があるわけではなく
むしろ敬意をもってやられた部分が多いと思うのですが
つまり、ある時期フレタギターは
憧れの、あるいは目指すべきギターだった。

今となっては、よく鳴るギターはたくさんありますが
例えば60年代などでは音が良くてバンバン鳴る!という点で
フレタ・・・あとラミレスとかかな
あの辺りは驚異的な存在だったのではないでしょうか。

だから、多くの演奏家に愛されたし
そういうこともあって、手工楽器も量産楽器も
いわゆるフレタのイメージを取り入れたものが
多く作られていたのだと思います。

フレタは杉の表面版で成功したタイプの製作家なので
60年代中ごろからは杉が多く
スプルースのフレタは少し珍しい部類です。

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裏板
よく磨いたら部屋が散らかっているのが映ってしまって

横裏板はローズウッド。
いつもビシッと柾目の材を使っている印象。
そういえば、表板もベアクロウとか見た記憶がありませんね。

フレタの横裏材ははローズが多くごくたまにハカランダを見ます。
希少価値も手伝ってハカランダ=上級機種というイメージは
結構あるかと思いますが、フレタの場合はあまり関係ないようです。
実際のところは材によって音も変わりますから
製作者の求めるところによって材は選択されているということですね。
ロマニロスやフレドリッシュもローズを好む製作家として有名です。

そういえば、珍しい例として
メープルを横裏に使ったフレタは弾いたことがあります。
いつものフレタより少し軽やかで明るい印象だったように覚えています。

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ラベル イグナシオ(初代)と二人の息子(ガブリエル&フランシスコ)で
作っているというラベルです。
ちょっと調べてみたのですが
1963年までは初代のラベルで64年以降がこのラベルのようですね。
ただ、ラベルが変わる前でも息子たちは手伝っていたということです。
この1977年という年は初代のイグナシオさんが亡くなった年で
まあ、ここまでが初代が触った楽器といえます。

初代はもともとヴァイオリン製作からギターに転向したようで
こういう細長いラベルはその名残なのでしょう。
初代ラベルはもっと細長いものでした。

60年代のものにはラベルに製作番号が記入されていたりしますが
このころになると製作番号は
内部のネック付け根あたりに刻印されています。

ちなみに、ネックの取り付け方は
ネックの付け根内部に大きなブロックを入れて
外から溝を掘りネックを差し込むという方法で
これはヴァイオリン作りから来ているとのことですが
「ドイツ式」と呼ばれています。
フォークギターなどもそういう作り方が多いようです。
マーチンとかドイツ系ですからね。

スペイン式はネック材を内部まで貫通させるやり方で
ネックの横に溝を切りそこに横板を差し込んだりします。

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ヘッド
スペイン系のギターのヘッドはいつも大きめですよね。
こういうのはきっとその土地や時代の美感みたいなものなんでしょう。
大変見慣れたデザインです。ナットはかなり太目。

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マシンヘッド
今はなくなってしまったフステロ社の糸巻。
竪琴が付かないこのデザインは「フレタ型」と言われています。
味わいがあっていいんですが、ギアの見た目も
あと、操作した感覚もちょっと高級感にかけるんですよね
換えたい気持ちが湧き上がりますがオリジナルがいいか迷いどころです。

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ブリッジ
両端に縦の白が入るのがフレタのデザイン。
サドル(骨棒)のオリジナルは1弦側も6弦側も1ミリかもうちょっとくらい
はみ出るように作られていて愛嬌を感じます。
写真のものはピッタンコですから後から作ったものでしょう。
弦高はかなり低めに調整されています。

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口輪
これもよくコピーされているので見慣れたデザイン。
しかし、フレタって同じデザインでずーーっと作る製作家ですよね。
ボディサイズは1世ラベルの終わりのころで少し大きくなっているようです。

さて、音の方はというとこれが本当に素晴らしい。
決して珍しいタイプの音ではなく、正に「ギター」という音。
多くのギターが目指したフレタ的な音の頂点。
著名なギタリスト達が名演をしたあの音色。
ある種のギターの音のイメージそのものという感があります。

低音も高音も円やかで
密度を感じる濃い音がグーッと伸びて行く
抑制を効かせたヴィブラートを加えて
その響きをいつまでも聴いていたい
そしてじっくりと音楽に向き合いたい気持ちにさせる音ですね。

鳴り自体はボリューム感という意味で、
たぶん杉のフレタの方があると思うのですが
スプルースのフレタは音の純度という点で大変魅力があります。

また、フレタというと
張りが強くて弾きこなすのが大変!というイメージもあり、
確かにしばらく試奏しただけでもそう感じるフレタはいくつもありました。

ただ、この楽器についてはどうもそれをあまり感じません。
弦高も低く、軽いタッチでも敏感に反応してくれますし
それでいて重みのある音がちゃんと出てくれる。
古い楽器にも通じる名器的な鳴り方と言えます。
芳志戸先生によって約20年、よく弾きこまれていることも
影響しているのではないかと思っています。

現代ギターの別冊で面白い資料があったので
鏡片手に見比べてみました。
クリックすると大きく見れます。
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写真は左が1世ラベルのもの(62年)、右がイーホスラベルで64年。
9本の扇状力木を受ける下の部分が両者で違うのですが
77年のこれは左と同じ力木配置でした。
これを1世型、旧型と言っていいのかどうかは
もう少しいろいろ見てみないとわかりませんが、
そういう風に注文したのかもしれませんね。

それ以外の点として
表板サウンドホールから上は板をもう1枚貼り付け
厚く、重くして、つまりあまり振動しないようにして
一方でサウンドホールから下をよく振らせる
というような発想がこの写真から見て取れます。
(実際に鏡で見てもそうなっていました)

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弦はとりあえず、ハナバッハの緑から試してみましたが
割と良いと思います。


HANNABACH シルバースペシャル E815LT Green Set

芳志戸先生の演奏はYouTubeなどで
今でも聴くことができます。
YouTubeにリンク

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