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2025年9月

2025年9月25日 (木)

11月のある日 / L.ブローウェル

11
https://youtu.be/BDxBudWByhA

11月のある日 / L.ブローウェル(1939- /キューバ)
Un Dia de Noviembre / Leo Brouwer(1939- /Cuba)

ギター演奏:長谷川 郁夫
指頭奏法
Guitar:Ikuo HASEGAWA
playing the guitar without using nails.

この曲は同名のキューバ映画の挿入曲として作られたものです。
映画「11月のある日」
監督:ウンベルト・ソラス
制作:1972年(35mm、110分)
公開:1978年11月28日まで延期され、その後封切り

映画と言ってもこの作品はエンタメ要素はほぼ無く、内容的には・・・
「主人公の青年革命家エステバンがある日医師から「脳動脈瘤」と診断され、自身の人生、そして母や亡き父、国外へ出たがる兄、魅力的なルシア、そして革命仲間たちとの過去を回想しながら、人生の意味を問いなおす」といったものでした。

またタイトルの「11月」についてはどうも暦でいう11月ではなく、エステバンが直面する「死」の予感・・・つまり人生の晩秋としての意味と、もう一方で1960年頃に革命が成功し社会主義国家となったキューバが70年代に入っても抑圧や物資不足が続き、平等や安定そして人々が願った幸福は確かなものにならなかったという、革命後の冷たい季節の象徴としてダブルミーニングを持たせた「11月」ということのようです。・・・つまり理想と現実の矛盾を、映画『11月のある日』は一人の青年の病と恋を通して静かに描いた作品と言えるでしょうか。

ちなみに72年に製作されたものの、公開が78年となったのも「灰色の5年間」と言われる1971年から1976年ごろのキューバで、文化・芸術活動が強く制約された時期にかかっていたからともされています。

この映画は原語で以下のURLから観ることができます。
https://www.youtube.com/watch?v=8JnAefsYeFI
この曲が挿入されているのは
17分ごろ、23分ごろ、53分ごろと
加えて64分ごろにバリエーションの形で演奏されていました。
編成はシーンによってですがフルートとギターを主体に、ベースとピアノや薄いストリングス、パーカッションも入っているでしょうか。
主人公の男性エステバンと恋人ルシアが戯れる穏やかな描写の部分などで現れ、“愛の喜びと哀しみが漂う淡い記憶”といった気分。甘くロマンティックな・・・ポール・モーリアなどのイージーリスニングを思わせるややポップなサウンドと感じました。

作曲者レオ・ブローウェル(Leo Brouwer, 1939– )は
キューバ・ハバナ出身の作曲家、指揮者、ギタリスト。幼少期からキューバ民謡やアフロ・キューバのリズムに親しみ、ハバナ国立音楽院を経てジュリアード音楽院でも学びました。伝統的ギター技法を超えた豊かな響きと、20世紀現代音楽の語法を取り入れた革新的作風で知られます。ギター独奏曲、協奏曲群、映画音楽など作品は多岐にわたり、キューバ音楽を世界的芸術へと押し広げました。ギタリストとしては1980年代まで活動していましたが、右手中指の腱を痛めたのがもとで以降は指揮活動を中心に活動しています。長年にわたりハバナ国立交響楽団やキューバ国立映画庁音楽部門を率いるなど、作曲家としてのみならず指揮者・文化人としても大きな足跡を残しています。

楽譜は
「クラシックギター名曲てんこもりBOOK Vol.1(GG出版)」を使いました。こちらにはギタリスト篠原正志先生の運指・校訂が入っています。
メジャーに転調する中間部は指の拡張で皆さんご苦労されるところかと思いますが、わたしはまるで指が届かないため戦意喪失(笑)。一計を案じハーモニクスで対応してみましたが、こんなアイデアはいかがでしょうか。

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2025年9月11日 (木)

木漏れ日のロマンス / 吉松 隆

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https://youtu.be/TEtRacrqVwg

「木漏れ日のロマンス」
吉松隆(1953-)ギター作品集「優しき玩具」より
《Romance for tree》
TENDER TOYS For Guitar by Takashi Yoshimatsu(1953-)

ギター演奏:長谷川 郁夫
指頭奏法
Guitar:Ikuo HASEGAWA
playing the guitar without using nails.

「木漏れ日のロマンス」の曲紹介には作者より以下のコメントが添えられていました。
「窓から差し込む木漏れ日と、それを受けて光る人形のスケッチ。小ぢんまりと、しかし優雅に。」(モデラート)

吉松隆氏は
「日本のマーラー」とも言われ、多くの作品を発表している日本が誇る現代作曲家の一人。山下和仁氏との交流から生まれた数曲のギター独奏作品や超絶技巧のギター協奏曲「天馬効果」が初めて作った協奏曲であったなど、我々にとっては嬉しいクラシックギターとの縁もある方です。
吉松氏のHPはウィットに富んだ文章が満載で楽しく拝見していますが、山下氏とのことなどはこちらに書かれており、ギタリストにとってはより興味深い記事かと思います。
演奏家たち(吉松隆HPより)
http://yoshim.music.coocan.jp/~data/I,composer/08.players.html

楽譜
ギター作品集「優しき玩具」には11曲のソロと7曲のデュオ作品が収録されています(現代ギター社刊)。同曲集は85年の武井賞(ギターのための作曲コンクール)を受賞しました。
上記「演奏家たち」リンクにある崎本譲氏(ハーモニカ奏者)のところには
「-優しき玩具-というシリーズは、彼のハーモニカとギターの芳志戸幹雄さんとのデュオを想定して書いたものが中心になっているんですが・・・」と触れられているところがあります。芳志戸幹雄先生はわたしの大学時代の恩師です。

「優しき玩具」は同名のピアノ作品集もあり、中のいくつかがこのギター版と重なっています。
https://www.youtube.com/watch?v=tvdpyTzWTGI
ちなみに第1集(1972年) 第2集(1974年) 第3集(1983/85年)とあり、「木漏れ日のロマンス」も第3集の第1曲として収録されていました。

以下は現代ギター社版の楽譜にこの曲集の《序》として掲載された吉松氏本人による文章です。
「つれづれなるままに日暮らしピアノに向かいそこはかとなく音楽など作っていると、太陽の動きと時の流れに沿っていろいろな音楽が生れ落ち、部屋の中やピアノの上をくるくると光に乗って舞い踊ったり空中を漂ったりし始める・・・《中略》・・・そういう音楽のかけらのほとんどは、小さな音符の断片のまま楽譜棚にしまい込まれて演奏されることも鳴ることもなく、夜な夜なぷつぷつと寝言を言ったり歯ぎしりをしたりしながら身の不遇と運動不足とを嘆いているようだ。
そこで、そんな類の音楽のかけらを何とかひとつの曲になるように組み立て、現代ギター誌邸の軒下をお借りして並べてみようと思い立った。・・・《後略》」

演奏アプローチについて
この曲を弾かれた方はお分かりかと思いますが、曲中に何度か出てくるGm(maj7)のコードが小指の短いわたしにはどうにも押弦が困難で、仮にがんばって押弦してもそこだけ指の拡張による緊張のため音楽が歪んでしまいます。そこで一計を案じて第5弦をG音に下げてアプローチすることにしました。
ベース音にオクターブ下がったところが出来ましたが、D-Gの動きが開放弦になり、風に揺らめくような気分は出しやすくなりました。

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2025年9月 4日 (木)

愛のワルツ / ウルリク・ノイマン

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https://youtu.be/EMMLpGWnJxE

愛のワルツ(ウルリク・ノイマン 1918-1994 )
Love Waltz《原題 Kärleksvals》(Ulrik Neumann 1918-1994 )

ギター演奏:長谷川 郁夫
指頭奏法
Guitar:Ikuo HASEGAWA
playing the guitar without using nails.

スウェーデン映画『Vaxdockan』のために作曲された音楽。映画ではギターとフルートで演奏され、ギターは作曲者ノイマン自身によるものでした。

ウルリク(ウルリック)・ノイマン
デンマークで生まれ、スウェーデンに没した人物。Wikipediaによれば「映画俳優兼ミュージシャン。1940年から1966年の間に19本の映画に出演した」とあります。また同じ北欧出身のアーティストとして親交があったスウェーデンのギタリスト イェラン・セルシェル(Göran Söllscher)は「作曲家、歌手、エンターテイナー…彼は万能のギタリスト。北欧諸国のクラシックギタリストなら、誰もが一度はこの傑作(愛のワルツ)を演奏したことがあるのではないでしょうか。また後に私のために協奏曲を書いてくれたことは大きな栄誉だった」と語っています。

スウェーデン映画「Vaxdockan」(1962年)
発音的には「ヴァクスドキャン」という感じでしょうか。意味合いとしては蝋人形のことを指すようです。邦題「沈黙の歓び」/英題「The doll」として発表されました。
映画の内容は幻想的かつ不気味なもので、ストーリーは
主人公であるデパートの孤独な夜警が店のマネキンの一体に執着し、やがてそのマネキンを盗み、いつも一緒にいられるよう自分の家に連れてくる。 するとある日からマネキンの彼女は魂を宿し人間の女になったり(マネキンに戻ったり)するようになる。それによっておこる様々な出来事、事件・・・」というものでした。
実はこの原語タイトルで動画検索するとその映画を観ることができました。字幕もありませんからセリフによるディテールは想像になりますが、全体に暗く重いトーンで狂気の愛を描く様子はどこかロシア文学のようでもあり、ブラックな手塚治虫などとも通じるところを感じました。

映画中での「愛のワルツ」
魂を宿し・・・つまり人間の女と化したマネキンと主人公が愛を交わすシーンで流れる音楽でした。なるほど、だから幸福に満ちた「愛」とは違う、美しさの中におどろおどろしい妖しさを湛えた音楽のように感じるのだな!と思いました。シーンに合わせた音楽の有りようと、それを見事に描いているノイマン氏の力量に感嘆しました。
サントラはそのシーンと共にこちらで聴くことができます。
https://www.youtube.com/watch?v=gQ7onkMPYn4

「愛のワルツ」のギターソロ版は後年セルシェル(Göran Söllscher)がドイツ・グラモフォン盤『Cavatina』で《Kärleksvals》として録音(リリース1984年)。この録音でギター界に広く定着しました。

楽譜について
ギターソロへの編曲はノイマン自身によるものと思われます。
今回の演奏においては現代ギター社刊「クラシックギター名曲てんこもりBOOK Vol.1」に掲載のもの(篠原正志先生の校訂)を使用し、少変更を加えています。

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